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【コラム】第7回「『ブロリー』で分析法を分析」

編集部にて、こんな描き込みを見つけました。


皆さんはどのようなインプットをし、どう分析していますか
僕は面白かった映画だけをなんとなく面白かったですませてしまいます


これを見て我が身を振り返ると、自分もインプットと分析がちゃんとできているのか怪しいものです。映画を見て自分なりに思ったことはあっても、それを作品に活かすことができているのか。あんまり活かせてない気はしますが、かといって映画を観た経験が無意味だったとも思えません。

自分がこれまでどのようにインプットと分析を行ってきたのか言語化してみると、いくつか面白い仮説が浮かんできたので書いてみます。
「これが僕のインプット・分析術です!」って言えるようなちゃんとしたシロモノではないですが、ご参考までに。


※上記の編集部の書きこみをした人は過去にいろいろと問題を起こした人なんですが、僕は正直そのへんのことに興味がありません。擁護するつもりも非難するつもりもないです。どうでもいいです。
「そんなことよりマンガの話しようぜ!」という気持ちで書いています。
それでは、マンガの話に戻りましょう。



【実例:ドラゴンボール超 ブロリー】
まずは僕が最近観た映画、『ドラゴンボール超 ブロリー』を例にとって、分析というか感想などを書いていきます。

一番の感想は「バトルすごい」です。
今まで見たどんなバトルシーンよりも迫力があり、胸が高鳴りました。昔のドラゴンボールと比べてこんなにレベルが上がっているのかとビックリしました。
ただし僕は最近のアニメをほとんど観ていません。今どきの他のアニメ映画と比べてもすごいのかどうか、そこは判断がつきません。気になるところです。


「バトルすごい」というのは何がすごいのか、なぜすごいのか。
いろいろありますが一番は「カメラワーク」だと思いました。空中戦では高速で空を飛ぶキャラを追うようにカメラが動き、闘っているキャラが感じているのと同じスピード感を自分も感じられます。これつくるの大変だっただろうなーと、アニメをつくったことのない僕でも思いました。たくさんお金を使ってたくさんの人を雇って、最新のCG技術なんかも使って長い時間をかけてつくったことでしょう。
ロングショットで全体を映して何が起こっているのか分かりやすくしつつ、要所要所で顔や拳のドアップで迫力を出す。カメラワークで緩急をつけています。金にものを言わせているだけ、なんてことはないでしょう。作り手さんのセンスの高さも感じました。



【三幕構成は無視?】
気になった点は、「バトルが始まるまでが長い」ことです。
バトルはすごいんですが、それが始まるまでけっこう時間がかかります。「はよバトルせんかな」と少し退屈に思った瞬間もありました。
映画のストーリーには「三幕構成」というお決まりのパターンがあります(考える編 第7回 参照)。ハリウッド映画などの世界的ヒット映画の多くは三幕構成でつくられています。三幕構成を使えば序盤が退屈ということにはならないでしょうが、『ブロリー』は三幕構成を完全に無視しています。それはなぜなのでしょうか。

少し考えると疑問は解けました。『ブロリー』はストーリー構成において一般的な映画と大きく違う点があります。それは「観客が最初からストーリーを知っている」という点です。
普通、観客は映画のストーリーを知りません。概要は知っていたり、どうせハッピーエンドなんだろうという予想はしていても、そこに至るまでの過程は全く分かりません。「次はどうなるんだ!?」と続きを気にしながら映画を観るものです。

一方『ブロリー』は、ブロリーと闘う話だと分かりきっています。主人公側が勝つことはまず間違いないでしょう。どうやって倒すか、ということも宣伝の段階でゴジータが出てくることを強く打ち出しているので、気になりはしません。

「はよバトルせんかな」と退屈に感じたのは、逆にとらえるとバトルに対する期待の裏返しだと言えます。退屈に感じる瞬間はあるものの、ストーリーが進みバトルへのお膳立てが進んでいく過程を見ているとテンションが上がってきます。
それが成り立つのは、ブロリーとバトルすること、それがメインディッシュだと分かりきっているからこそです。それを知らずにこの映画を観ていたら、前半部分は本当に退屈になりそうです。三幕構成を無視しているというより、バトルする話だと分かりきっているのであれば、三幕構成にする必要がないのでしょう。三幕構成の使い方について、一つ学んだような気がします。



【分析のしかたを分析しよう】
他にも「チライがかわいい。やっぱり女の子キャラは大事」とか、細かい感想や分析はまだあるのですが、このへんにしておきましょう。

さて、今回の主題は『ブロリー』の分析ではなく、それを通して僕の分析の方法を言語化することでした。上記のような分析は、どのような過程で僕の頭の中からひねり出されてきたのでしょうか。


僕の分析内容を見てみると、目立つのは「他作品との比較」です。

今まで観たバトルの中で一番すごい」
昔のドラゴンボールより進化している」
最近の他のアニメもバトルすごいのか気になる」
世界的ヒット映画は三幕構成が使われているが、『ブロリー』は使われていない」
普通の映画なら観客はストーリーを知らないが、『ブロリー』は例外」

これらの感想や分析は『ブロリー』についてのものですが、全て他の作品との比較ありきです。「カメラワークがすごい」「チライがかわいい」といったものも、無意識に他の作品やキャラと比べた上でカメラワークやチライのかわいさを褒めているのでしょう。「やはり女の子キャラは大事」というのも、他の作品でも女の子キャラの大事さを感じているからこそ出てくる感想です。


そう考えると、『ブロリー』を分析するときに、注目すべきなのは『ブロリー』自体ではないようです。注目すべきは他の作品です。『ブロリー』と相違点がある作品、共通点がある作品、同じドラゴンボールシリーズの過去の作品。それらと『ブロリー』を比較することで、初めて『ブロリー』という映画の特徴が見えてきます。


描く編 第2回で、「鶴を描くなら他の鳥と見比べて違いを見つけよう。『特徴』って言葉自体が『他との違い』という意味」ということを書きましたが、それと同じですね。)



【分析力を上げるには】
ある作品を分析するときに、その作品だけを何回も繰り返し観たとしても、その作品についての理解はそこまで深まらないでしょう。その作品の特徴は、他の作品と見比べないと分かりません。マンガなど他のメディアでもかまいません。それらとの共通点や相違点を探せば何かに気付けるかもしれません。

それをやろうと思うと、そもそもたくさんの作品に触れていないといけません。これまでに観たことのある映画が2、3本だけでは比較のしようもないでしょう。
映画であれマンガであれ、たくさん観ましょう。たくさん読みましょう。映画を1本観ただけではすぐに何が変わりはしません。ですが続けていけば比較に使える作品が増えていき、分析力も確実に伸びていきます。

もっと直接的に分析力を上げるには、プロの分析を見ましょう。プロとはつまり評論家です。評論家の評論を読みましょう。
えらいもので評論家の文章は主観的な感想を述べたものでなく、客観的な説得力が出るように書かれています。その方法の一つが、やはり他作品との比較なのです。
「似たようなジャンルの○○という作品と違って今回の作品は〜」
「監督のデビュー作はこんな話で今回もそれと共通する部分があり〜」
このような解説が多々見られます。プロの分析の仕方を見ると参考にできることもあるでしょう。

ちなみに僕は映画の評論はあまり読んだことがないです。代わりに小説の文庫本の後ろについてる解説が好きでよく読んでました。そこでも他作品を引き合いに出していることが多かったです。この小説の解説が、僕の分析力の礎になっているように思います。


また、単純に創作に関する知識を多く持っている方が、分析はしやすくなるでしょう。
カメラワークや三幕構成に関する分析をしましたが、それらは僕がすでにこの連載の中でお話ししているものです(カメラワークについては描く編 第12回 参照)。僕にある程度の知識があったからこそカメラワークや三幕構成に関する分析ができたわけで、知識がなければ分析のしようがありません。
評論の方法を知るだけでなく、創作の知識を得ることも、分析力の向上につながるでしょう。



【分析を自分のマンガに活かしてみよう】
他の作品と比べることで、『ブロリー』の特徴をいくつか挙げることができました。


「バトルすごい」
「カメラワークすごい」
「大量のお金・マンパワー・CG・時間がかかっている」
「カメラワークの緩急とかのセンスがすごい」
「ストーリーが分かりきっていたら三幕構成は不要」
「女の子大事」

しかしここで終わっては意味がありません。
これらの分析を自分のマンガに活かすことを考えましょう。そのための分析です。


「バトルすごい」→バトル描くのがんばろう
「大量のお金etc.がかかっている」→趣味のマンガでは限界がある
「カメラワークのセンスすごい」→ロングとアップの使い方とか意識しよう
「ストーリーが分かりきっていたら…」→そういうのを自分が描く機会はまずなさそう。
「女の子大事」→かわいい女の子描けるようにがんばろう


…あんまり活かせそうにない…。


分析したことをもっと深堀りすれば得られるものはあるかもしれません。
『ブロリー』ではロングとアップをどのように使っているか、何回も見返して模写するとか。チライがかわいいならそれも模写してデザインを勉強するとか。

そう考えると「分析する」→「すぐにできることが増える」とはならずに、分析によって「何を練習すべきかが分かる」ということなのかもしれません。分析してその作品のよいところを取り入れるといっても、すぐに取り入れられるわけではないようです。練習は必要で、何を練習すべきか課題をはっきりさせることが分析ということなのかもしれません。



【自分と比較してみる】
「大量のお金etc.がかかっている」→趣味のマンガでは限界がある というものについては、これ以上得られるものはないようにも見えます。しかしこれはこれで意味があることだと僕は思います。自分には使えるお金や労力に限界があり、その範囲内で作品をつくらなければいけないという状況を、しっかり認識できたからです。
そう考えると、たくさんのプロが集まってつくった『ブロリー』からマンガの描き方を盗もうというのは、舐めた考えであるとも言えます。僕のような素人にプロの技を簡単に盗めるわけがありません。「分析しても活かせそうなことがない」と嘆くのは、当然の結果なのです。


そうであれば、『ブロリー』を分析して自分の作品に活かすとしても、あくまで「自分にできることの範囲で」という制限がつきます。
ここで僕は、「自分が『ブロリー』から学び取れるものはなんなのか」「学び取りたいことは今の自分の力で学び取れるのか」「自分には何ができるのか」ということを考える必要に迫られます。これはもはや『ブロリー』の分析ではなく、自分自身のことを掘り下げる作業です。
また、お金や労力を割けない中で、はたして僕はどのように創作をしていくのか。今後の僕のあり方まで問われてきます。「バトル描くのがんばろう」「かわいい女の子描けるようにがんばろう」という、分析と呼べるほどのものではないただの感想も、今後の自分の努力の方針に影響するものです。決して軽いものではありません。


結局のところ、『ブロリー』を通して僕は、自分自身の分析をしていたのです。
『ブロリー』という、僕とは別の存在と僕自身を比較して、僕の特徴や今後の課題を浮き彫りにしていたのです。

僕には何ができるのか。
僕は何を描きたいのか。
僕はこれからどう創作していくのか。

それを少しでも掘り下げることができたのなら、技術的なことを学べなかったとしても、大いに意義はあったと思います。


(自分よりすごい人が作ったものを見て自分が進むべき道を見つけるというのは、描く編 第3回でお話した「師を見るな、師が見ているものを見よ」という言葉と通じるものがありますね)



【まとめ】
まとめます。

●大事なのは「他作品との比較」
●分析する作品だけ観ていても得られるものは少ない
●比較対象を増やすため、たくさんの作品に触れる(プロの評論も含む)
●作品と自分を比較し、自分にできることや、やりたいことを浮き彫りにする


そういうことができれば、作品に触れた甲斐はあったと言えるんじゃないでしょうか。

ちなみに僕は良い作品を見ると「自分も良い作品を作りたいなあ」と、毎回思います。
しかし悲しいかな、筆が遅いので全然作品を形にできていません。「ギ」もしばらく更新できていませんね。

今は『描き方アンソロに描いた奴の続き』が一番描きたくて、一番優先させています。
しかし僕が描きたいものはこれだけではありません。「ギ」も描きたいし頭の中にはまだまだ描きたいものがいっぱいあります。


ゆっくりであっても、自分なりに描きたいものを描いていきます。

『ブロリー』を観て、自分が使える時間と労力は限られていても、その中で自分のやれることはやっていきたいと思えたから。


それでは今回はこのへんで。
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