TOPに戻る
前のページ  次のページ

【コラム】第6回「いくら丼を描いてみる」


美味しそうな炒飯の絵を描けるようになるべく研究をしていた僕は、壁にぶつかった。
前回得た知見の一つに、「チャーシューは大きく描いた方が美味しそうに見える」というものがあった。と言ってもそれは簡単なことではない。大きく描くのであれば、黒っぽい四角のかたまりだけ描いてごまかすというわけにはいかない。チャーシューをチャーチューとして美味しそうに描かねばならない。

これが一筋縄ではいかない。どう描いてもそれっぽくならない。写真を拡大すると肉の筋が見えるが、それを全て描くわけにもいかない。僕の絵柄は写実的ではなくデフォルメ寄りなので、適度に簡略化しなければならない。そこで難航しているのだ。細かく描いたらゴチャゴチャするし、簡略化するとチャーシューに見えない…。

僕は途方に暮れた。

しかしいつまでもそうしているわけにはいかない。
こんなときは、美味しいものを食べよう。いつものようにYouTubeで料理動画を観あさっていたら、いくらの醤油漬けの動画を見つけた。実に美味そうだ。

いくらをつくろう。僕好みの味付け、食感のいくらを。
そしてホカホカの白米に乗せて、いくら丼をつくろう。

いくら丼を描く練習をしてもいいかもしれない。具材がいっぱい入った炒飯よりは描くの簡単だろう。

もっとも、いくら丼を食べてみて美味しかったらの話だけど。
心から「美味い!」と思えるようなものじゃないと、わざわざ描こうというモチベーションは生まれないだろうから。


【トレースしてみる】
そんなわけで、いくら丼を描いてみることにしました。心から美味かったです。

今までいろいろ料理してきたけど、過去につくったどれよりも美味しいかもしれません。けっきょく素材の力が全てなのか…と考えさせられてしまいました。
鮭の筋子を買って、粒をほぐして調味料に漬けただけでできるんですが、調味料の配分や漬ける時間で味や食感を調整できます。ガツンと醤油を効かせたり薄味にしていくらの甘みを出したり。歯ごたえのあるプチプチ食感にしたり口の中で溶けるような柔らかないくらにしたり。今回初めてつくったんですが、すでに「次はこんな感じにしようかな…」と考えてしまっています。ハマりそうです。
値が張るので気軽にはできませんが、楽しいです。よければみなさんもやってみてください。


本題に戻ります。まずはいくら丼の写真をトレースしていきます。
前回の炒飯のときは白と黒だけで描いてみましたが、今回は灰色も使っています。じゃないと難しそうなので。


まずは線画を描きます。
いくらが主役なので一粒一粒しっかり描きます。白米は主張をおさえるために省略しながら描きます。のりは省略して描くとのりっぽくなくなりそうなのでしっかり描きます。
いくらは粒が大きいので、一粒一粒ちゃんと描いてもまだ楽な方です。炒飯の米粒よりはだいぶマシ。
炒飯を描いたときにも細かいところをしっかり描きこんだ方がそれっぽくなるということを学んでいるので、がんばっていきましょう。

それでもいくらに色をつけ、ハイライトを入れたあたりで疲れてきます。僕はバケツツールで塗りつぶしているので、一粒一粒選択して色をぬっていかないといけません。線が途切れてたら白米まで塗ってしまうし。それを修正するのもめんどくさいんですよね。

まだ影をつける作業が残っているのですが、気晴らしに別のところを描いてみましょう。器とか描きましょう。写真どおりに光沢もいれてやるといい感じになりそうなきがします。


【いくら丼よりその周り】

光沢を意識しながら器をトレースしました。おお、なんか一気に良い感じになった気がします。
パンチの描き方の解説で「実はメインとなる手や腕よりも、それ以外の方が大事」と描きましたが、料理にも同じことが言えそうです。いくら自体よりも盛り付けとかの方が大事なのかもしれません。

この調子でいくら丼以外を描いてみましょう。今度は机の木目模様を描いてみます。

やっぱりいい感じな気がする…!「机の上に置いてある」という状況を描くことで、いくら丼が一気に存在感を増したように思います。それまでは虚空の中にいくら丼が浮いているという、非現実的な状況でしたから。

それでは最後にいくらに影をつけましょう。いくら一粒の丸みに沿った影をいれるだけでなく、全部影にしちゃう真っ暗なゾーンもつくりましょう。それによって立体感が生まれます。

かなり美味しそうに仕上がったのではないでしょうか。本当はもっと細かく灰色を使い分けていくらの色合いを表現してもいいところですが、疲れてきたので終わります。細かく描きすぎると写実的になってきて僕本来の絵柄とも離れてしまいますし。


【何も見ずに描いてみる】
それでは何も見ずに描いてみます。


…なんかちがーう!!!!

いくらが全然美味しそうじゃない…。なんか気持ち悪いよ…。

いくらというより筋子っぽいですね。いくらの粒が全部くっついているように見えます。
トレースしたときにいくらといくらの間の線を途切れさせるといい感じになったのでそれをやったら、今度は途切れさせ過ぎたようです。境界線がなくなったので完全にくっついて見えます。
いくらの配置も良くない。トレースしているときはいくらのランダムな配置が、盛り付けとしてキレイではないと感じていました。キレイに配置させたことで、いくら全体が一つのかたまりのように見えてしまっているのでしょう。

これはいけない。こんなのは僕が舌鼓を打ったあのいくら丼ではない。もう一度、何も見ずに描いてみましょう。

筋子になるのは回避できました。境界線をちゃんと描くことと、均一にキレイに並べないことがポイントですね。これはいろんな集合体を描くときに応用できそうです。


【終わってみる】
他にもいろんなことが言えそうですが、今回はこのへんにしておきましょう。
今になって冷静に描いた絵を見るといくらがあんまりいくらに見えない気もしますが、このへんにしましょう。いくらというよりグリーンピースっぽく見えてきました。

でもいいんです。マンガで描くときは「へい、いくら丼一丁お待ち!」とか言わせればいくら丼だと分かってもらえます。練習する前よりは上手くなっているんですから、それでいいのです。

いくら丼は構成パーツの形がシンプルなので、かなり描きやすい方だと思います。それでも、いざ描いてみると学ぶところはたくさんありました。
みなさんも、料理の絵を練習するのであれば、まずはいくら丼から練習するといいかもしれません。

なんかちょっとシュールですけどね。最初がいくら丼て。

それでは今回はこのへんで。
前のページ  次のページ
TOPに戻る