【コラム】第2回「正しい「テーマ」の立て方」
内向き思考の回で触れたように、作品にテーマを持たせることができると、ストーリーをつくりやすくなります。無限の選択肢の中からどういうものを選ぶかという、指針になってくれるのです。またテーマのある作品は、作者が想いを込めて描いたように見えて名作っぽくなります。
しかし作品にテーマを持たせるには、少し慣れが必要です。
ポイントは次の3点です。
●テーマは後付け
●普段からテーマを練り、ストックしておく
●作家としてのテーマを持つ
それでは行ってみましょう。
【テーマは後付け】
テーマは作品の指針になりますが、作品づくりの出発点にするのは難しいです。「○○をテーマに作品をつくろう!」と考えるのは悪手です。
例えば「命は大事」というテーマで作品をつくるとします。そうすると僕の脳内に浮かぶのは、「病弱で死期が近い少女がいる。主人公が少女と関わる。そのうち少女は亡くなる。主人公は命のかけがえのなさを知る」といったあらすじです。
このあらすじには難点が二つあります。
まずはテーマが前面に出すぎていること。命の大事さを伝えたいという作者の意図が見え見えだと、読者は萎えます。説教くさくて道徳の教科書みたいです。
しかしこれについては、ストーリーや演出しだいで説教くささを軽減できます。また、テーマには「女の子をとにかく可愛く描きたい!」といったものもあります。この場合はそもそも説教くさくなりません。テーマが前面に出ることは、致命的というほどの問題ではありません。
致命的なのは、このあらすじに具体性が全くないことです。主人公と少女はどのように関わるのか。そもそも主人公や少女はどんな人物なのか。そうした具体的な要素は、「命は大事」というテーマからは決められません。具体的な要素がないのでは、ぼんやりと「こんな話をつくりたい」と考えているだけにすぎません。その程度の考えはわざわざテーマを設定しなくても頭に浮かびます。
テーマの設定は、ストーリーづくりの最初に行うべきではありません。具体的なストーリーを生みだしやすいものを出発点にして、話を考えていくべきです(僕の場合キャラクターが元になってストーリーが浮かぶことが多いです)。
ある程度ストーリーが形になった段階で、テーマを設定します。「このストーリーだと、命の大事さを描くことができる。『命は大事』というのをテーマにしよう」という調子です。こうしてストーリーにテーマが与えられ、その後のストーリーづくりの指針になってくれます。
【普段からテーマを練り、ストックしておく】
テーマを後付けする場合、少し困ったことがあります。「命は大事」ということを伝えるのに適したストーリーを思いつかない限り、作者は「命は大事」というテーマを扱えないのです。「どうしても命の大事さをテーマに作品をつくりたい!」という人には酷な話です。
ここで「普段からテーマを練り、ストックしておく」ということが必要になります。「命は大事」というテーマについて、普段から深く考えておくのです。いつも命の大事さについてばっかり考えている人が、そのテーマを一旦わきにおいてストーリーを考える。そうして生まれたストーリーは、命の大事さと無関係なものにはなりません。
ただしいつも命の大事さについてばっかり考えているといっても、「命は大事だよなあ。ほんと大事。いやマジでマジで」なんて調子ではいけません。
もっと深く考えます。そもそもなぜ、命は大事なのか。苦痛なく安楽死できれば少女の死は悲しむことではないんじゃないか。延命治療につらい副作用が伴う場合なら、死んだ方が幸せなんじゃないか。植物状態になってでも生きるべきなのか。意識のない植物状態は生きていると言えるのか。そもそも生きるってなんだ。五体満足でも、将来に希望がないまま漫然と日々が過ぎているだけの状態は、生きていると言えるのか。命ってなんなんだ。
こんな風に深く考えていれば、命というものに関するいろんなテーマが自分の中にストックされていきます。ストックが十分多ければ、何かキャラが死ぬとか死にそうになる話を考えたときに、一つは使えるテーマがあるはずです。
(ここで「命」から出発して様々なテーマを生んだ過程は、考える編1、2回目の連想とか外向き思考と同じです)。
テーマを練るのは難しそうと思われるかもしれません。しかしテーマを練るためのヒントは、日常生活のあらゆるところに転がっています。
例えば有名人が亡くなったニュースを見れば、おのずと命について考えてしまうでしょう。身近な人が亡くなることもあるかもしれません。実際に人が亡くならなくても、「愛する人がもしも死んでしまったら自分は生きていけない」なんて考えることもあるでしょう。嫌なことがあって死んでしまいたいと思うことも、誰にだってあるはずです。
「命は大事」というテーマに限りません。「感謝は大事」、「人を愛することは素晴らしい」、「幸せってなんだ」などなど、たいていのテーマは日常生活と関わりのあるものになります。テーマというものは「普遍性(いつでもどこでもどんな状況でも、誰にでも通じる性質)」を持つものなのです。
「戦争で人を殺すのは悪なのか」など、特殊な状況下におけるテーマでも同様です。「戦争」や「殺人」、「悪」というテーマについて連想していけば、日常生活との関わりが見えてきます。
逆に言えば、日常生活からもいろんなテーマを思いつくことができます。無理にテーマらしきものを考えだす必要はありません。日常生活のふとしたことをきっかけに、思わず考えこんでしまうようなことをテーマにすればよいだけなのです。何に強く関心を持つかは人それぞれなので、自然に生まれるテーマはその人の個性(大げさに言えばその人の人生そのもの)を反映したものになります。
【作家としてのテーマを持つ】
そうは言われてもテーマになりそうなものが浮かばないこともあるかもしれません。そんなときに考えてほしいのが、自分の「作家としてのテーマ」です。
作家としてのテーマとは、「自分はどんな作品を描きたいのか」、「作品を通して何を伝えたいのか」、「なぜ自分は創作をするのか」などの、作家としてのあり方に関するテーマです。これが決まるとすごく便利です。前述のように、テーマは指針になります。作家としてのテーマはどんな作品を描くときにも使える、強力な指針になります。
作家としてのテーマは漠然としたものでかまいません。特別なものである必要もありません。「読者を笑顔にしたい」、「女の子は可愛く描きたい」といったもので十分です。
肝心なのは、テーマを見失わないことです。「読者を笑顔にしたい」というテーマを持ってる人が、流行っているからといってグロテスクな描写を描こうとしても、簡単に描けるものではありません。逆に流行に惑わされずに読者を笑顔にする作品を描き続ければ、作家としての作風が確立されていきます。
ただしグロを描いてはいけないわけではありません。読者を笑顔にしたいと思っていても、「もし自分がグロを描いたらどんな作品になるんだろう」と興味をもつことはあるでしょう。このように、グロが自分にとって異質なものだと理解しているのなら問題ありません。笑顔にしたいというテーマを見失っているわけではないですから。
さらに、作家としてのテーマは変わることもあります。前述のように、テーマは日常生活の中で練られていくものです。その中で「読者を笑顔にするだけじゃダメなんじゃないか。もっと大事なことがあるんじゃないか」という考えに至るかもしれません。それはテーマを見失ったわけではなく、テーマが進化したと言うべきです。読者はその変化に面食らうかもしれませんが、作者の描きたいものが変わったのならそれを描くべきでしょう。
さらに作家としてのテーマを決めることは、創作へのモチベーション強化につながります。「読者を笑顔にしたい」というテーマで創作し続けていると、そのうちテーマが創作の目的になっていきます。「読者を笑顔にするために創作する」という気持ちになっていくのです。
【テーマは伝わる】
最後に、テーマを作品に反映するときには注意が必要です。前述のようにテーマが前面に出すぎると説教くさくなります。登場人物が「命は大事なんだー!」とか叫び出すのは良くないです。
テーマは作品づくりの指針ですが、テーマだけが指針というわけではありません。マンガのような娯楽作品の場合、「面白さ」という指針は無視できないでしょう。面白くなるように話をつくろうとしても、面白くする方法には無限の選択肢があります。ではどれを選ぶかというときに、テーマに沿ったものを選ぶのです。
それだけでも十分、テーマはストーリーに反映されます。テーマの伝え方はさりげなくなりますが、伝わる人には伝わります。少なくとも、あなたと似た感性を持ち、あなたのテーマを重要だと感じる人は、どれだけさりげなく伝えても気付いてくれます。ひょっとしたその人は、あなたと似たようなテーマについて普段から考えていて、あなたと同じようにテーマを練っているのかもしれません。
あなたのテーマを必要としている人は、きっとどこかにいます。ぜひあなたのテーマを作品にしてみてください。
しかし作品にテーマを持たせるには、少し慣れが必要です。
ポイントは次の3点です。
●テーマは後付け
●普段からテーマを練り、ストックしておく
●作家としてのテーマを持つ
それでは行ってみましょう。
【テーマは後付け】
テーマは作品の指針になりますが、作品づくりの出発点にするのは難しいです。「○○をテーマに作品をつくろう!」と考えるのは悪手です。
例えば「命は大事」というテーマで作品をつくるとします。そうすると僕の脳内に浮かぶのは、「病弱で死期が近い少女がいる。主人公が少女と関わる。そのうち少女は亡くなる。主人公は命のかけがえのなさを知る」といったあらすじです。
このあらすじには難点が二つあります。
まずはテーマが前面に出すぎていること。命の大事さを伝えたいという作者の意図が見え見えだと、読者は萎えます。説教くさくて道徳の教科書みたいです。
しかしこれについては、ストーリーや演出しだいで説教くささを軽減できます。また、テーマには「女の子をとにかく可愛く描きたい!」といったものもあります。この場合はそもそも説教くさくなりません。テーマが前面に出ることは、致命的というほどの問題ではありません。
致命的なのは、このあらすじに具体性が全くないことです。主人公と少女はどのように関わるのか。そもそも主人公や少女はどんな人物なのか。そうした具体的な要素は、「命は大事」というテーマからは決められません。具体的な要素がないのでは、ぼんやりと「こんな話をつくりたい」と考えているだけにすぎません。その程度の考えはわざわざテーマを設定しなくても頭に浮かびます。
テーマの設定は、ストーリーづくりの最初に行うべきではありません。具体的なストーリーを生みだしやすいものを出発点にして、話を考えていくべきです(僕の場合キャラクターが元になってストーリーが浮かぶことが多いです)。
ある程度ストーリーが形になった段階で、テーマを設定します。「このストーリーだと、命の大事さを描くことができる。『命は大事』というのをテーマにしよう」という調子です。こうしてストーリーにテーマが与えられ、その後のストーリーづくりの指針になってくれます。
【普段からテーマを練り、ストックしておく】
テーマを後付けする場合、少し困ったことがあります。「命は大事」ということを伝えるのに適したストーリーを思いつかない限り、作者は「命は大事」というテーマを扱えないのです。「どうしても命の大事さをテーマに作品をつくりたい!」という人には酷な話です。
ここで「普段からテーマを練り、ストックしておく」ということが必要になります。「命は大事」というテーマについて、普段から深く考えておくのです。いつも命の大事さについてばっかり考えている人が、そのテーマを一旦わきにおいてストーリーを考える。そうして生まれたストーリーは、命の大事さと無関係なものにはなりません。
ただしいつも命の大事さについてばっかり考えているといっても、「命は大事だよなあ。ほんと大事。いやマジでマジで」なんて調子ではいけません。
もっと深く考えます。そもそもなぜ、命は大事なのか。苦痛なく安楽死できれば少女の死は悲しむことではないんじゃないか。延命治療につらい副作用が伴う場合なら、死んだ方が幸せなんじゃないか。植物状態になってでも生きるべきなのか。意識のない植物状態は生きていると言えるのか。そもそも生きるってなんだ。五体満足でも、将来に希望がないまま漫然と日々が過ぎているだけの状態は、生きていると言えるのか。命ってなんなんだ。
こんな風に深く考えていれば、命というものに関するいろんなテーマが自分の中にストックされていきます。ストックが十分多ければ、何かキャラが死ぬとか死にそうになる話を考えたときに、一つは使えるテーマがあるはずです。
(ここで「命」から出発して様々なテーマを生んだ過程は、考える編1、2回目の連想とか外向き思考と同じです)。
テーマを練るのは難しそうと思われるかもしれません。しかしテーマを練るためのヒントは、日常生活のあらゆるところに転がっています。
例えば有名人が亡くなったニュースを見れば、おのずと命について考えてしまうでしょう。身近な人が亡くなることもあるかもしれません。実際に人が亡くならなくても、「愛する人がもしも死んでしまったら自分は生きていけない」なんて考えることもあるでしょう。嫌なことがあって死んでしまいたいと思うことも、誰にだってあるはずです。
「命は大事」というテーマに限りません。「感謝は大事」、「人を愛することは素晴らしい」、「幸せってなんだ」などなど、たいていのテーマは日常生活と関わりのあるものになります。テーマというものは「普遍性(いつでもどこでもどんな状況でも、誰にでも通じる性質)」を持つものなのです。
「戦争で人を殺すのは悪なのか」など、特殊な状況下におけるテーマでも同様です。「戦争」や「殺人」、「悪」というテーマについて連想していけば、日常生活との関わりが見えてきます。
逆に言えば、日常生活からもいろんなテーマを思いつくことができます。無理にテーマらしきものを考えだす必要はありません。日常生活のふとしたことをきっかけに、思わず考えこんでしまうようなことをテーマにすればよいだけなのです。何に強く関心を持つかは人それぞれなので、自然に生まれるテーマはその人の個性(大げさに言えばその人の人生そのもの)を反映したものになります。
【作家としてのテーマを持つ】
そうは言われてもテーマになりそうなものが浮かばないこともあるかもしれません。そんなときに考えてほしいのが、自分の「作家としてのテーマ」です。
作家としてのテーマとは、「自分はどんな作品を描きたいのか」、「作品を通して何を伝えたいのか」、「なぜ自分は創作をするのか」などの、作家としてのあり方に関するテーマです。これが決まるとすごく便利です。前述のように、テーマは指針になります。作家としてのテーマはどんな作品を描くときにも使える、強力な指針になります。
作家としてのテーマは漠然としたものでかまいません。特別なものである必要もありません。「読者を笑顔にしたい」、「女の子は可愛く描きたい」といったもので十分です。
肝心なのは、テーマを見失わないことです。「読者を笑顔にしたい」というテーマを持ってる人が、流行っているからといってグロテスクな描写を描こうとしても、簡単に描けるものではありません。逆に流行に惑わされずに読者を笑顔にする作品を描き続ければ、作家としての作風が確立されていきます。
ただしグロを描いてはいけないわけではありません。読者を笑顔にしたいと思っていても、「もし自分がグロを描いたらどんな作品になるんだろう」と興味をもつことはあるでしょう。このように、グロが自分にとって異質なものだと理解しているのなら問題ありません。笑顔にしたいというテーマを見失っているわけではないですから。
さらに、作家としてのテーマは変わることもあります。前述のように、テーマは日常生活の中で練られていくものです。その中で「読者を笑顔にするだけじゃダメなんじゃないか。もっと大事なことがあるんじゃないか」という考えに至るかもしれません。それはテーマを見失ったわけではなく、テーマが進化したと言うべきです。読者はその変化に面食らうかもしれませんが、作者の描きたいものが変わったのならそれを描くべきでしょう。
さらに作家としてのテーマを決めることは、創作へのモチベーション強化につながります。「読者を笑顔にしたい」というテーマで創作し続けていると、そのうちテーマが創作の目的になっていきます。「読者を笑顔にするために創作する」という気持ちになっていくのです。
【テーマは伝わる】
最後に、テーマを作品に反映するときには注意が必要です。前述のようにテーマが前面に出すぎると説教くさくなります。登場人物が「命は大事なんだー!」とか叫び出すのは良くないです。
テーマは作品づくりの指針ですが、テーマだけが指針というわけではありません。マンガのような娯楽作品の場合、「面白さ」という指針は無視できないでしょう。面白くなるように話をつくろうとしても、面白くする方法には無限の選択肢があります。ではどれを選ぶかというときに、テーマに沿ったものを選ぶのです。
それだけでも十分、テーマはストーリーに反映されます。テーマの伝え方はさりげなくなりますが、伝わる人には伝わります。少なくとも、あなたと似た感性を持ち、あなたのテーマを重要だと感じる人は、どれだけさりげなく伝えても気付いてくれます。ひょっとしたその人は、あなたと似たようなテーマについて普段から考えていて、あなたと同じようにテーマを練っているのかもしれません。
あなたのテーマを必要としている人は、きっとどこかにいます。ぜひあなたのテーマを作品にしてみてください。