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【コラム】第14回「【実践例】4コマ漫画の考え方」

最近Twitterにて、「1時間4コマ会(通称1h4d)」という企画に参加しています。
毎週土曜の21時に公式アカウントがお題を発表し、それを見た参加者が1時間ほどで描く。描けたら「#1h4d」のハッシュタグをつけてTwitterに投稿するだけです。

1時間で描き上げるためには、僕の場合10分ほどでネタを決めて絵を描き始めないと間に合いません。僕はどうやって短時間でネタを考えているのか。思考の過程を言語化することに成功したので、ここに書いてみます。
アイディアの出し方や話の構造など、考える編でお話してきたことの実践例になっています。何かの参考になれば幸いです。


例として、「月見」というお題で描いたこちらの作品を取り上げます。



普段はネタが発表されると「今回のお題は○○か〜。よーし考えるぞー!」という感じなのですが、この日は疲れていたのかお題を見ても全く心が躍らず、全然やる気が出ませんでした。「今日こそは1時間経ってもネタが浮かばないんじゃないか」という予感がしてヒヤヒヤしたのですが、なんだかんだでちゃんと描き上げることができました。

それでは、上の4コマ漫画のネタを思いつくまでの過程を説明していきます。


【まずはネタ出し!!】
まずは「月見」から連想される言葉を書き連ねてみます。




↑ネタ出しに使った実際のメモです。iPadの「GoodNotes5」という有名なメモアプリを使っています。
この時点でオチに使われる「ルナティック」という単語が出てきています。「狂気」といった意味なのですが、「ルナ」は「月」を意味します。昔の西洋では月の光が人を狂わせるとされていたため、「ルナティック」で「狂気」です。今調べたら少し侮蔑的なニュアンスの言葉らしいので、英語圏の人から見たら刺激の強い4コマ漫画になってしまっているのかもしれません。

月見と関連がある言葉を書き連ねましたが、この時点では何も思い浮かんでいません。どのワードを見ても「こっから面白いもの生まれてこなさそう」と絶望気味です。

考える編 第20回「ネームを形にする方法」でもお話しましたが、ネタを考えるときは絵で考えることも大事です。言葉だけでなく絵も描いてみましょう。




月を見ているところ、月見団子を描いたのですが…何も浮かばん!!
ちょっと焦りつつ、がんばって考えます。



【ネタを連想する!!】
頭の中をフル回転させつつ、ふと先ほど書いた言葉たちに目をやります。



「団子」と「もちつき」が同時に目に入りました。
「もちつき」は「うさぎ」とつながっています。ここで「うさぎ―もちつき―団子」とつながり、「月のうさぎは餅だけでなく、月見団子も作っている」という状況が頭に浮かびました。

これはなんだかイケそうです。一般的ではない発想なのでネタになりそうです。


ですがまだまだ先は長いです。
「この団子はうさぎが月で作ったものなんで〜す」「そうだったの〜!?」なんて漫画だとオチが弱すぎです。これだけでは構成要素が足りません。

そして、月で作られた団子が、なぜ地球にあるのでしょうか?
ロケットで送っているのでしょうか。うさぎが剛速球で団子を投げて地球まで飛ばしている、なんてどうでしょう。面白そうですがネタとしては弱い気がします。


「月で作られた団子が、なぜ地球に?」という疑問に悩みましたが、答えが出ないので発想を転換します。疑問自体をネタにしましょう。
例えば「月で作られた団子が地球にあるなんて、おかしいやろが〜い!!☝💦(ズコー)」という形。疑問に答えを出さず、疑問のままネタとして扱います
テストじゃないので、団子がなぜ地球にあるのか、答えを出さなくてもやりようはあるのです。

団子が地球にある理由には、答えを出さない方向で考えます。
それでもすぐにはアイディアが浮かばず、いろいろ考えます。そこで再び「うさぎ―もちつき―団子」というつながりに目を向けました。

よくよく考えたらこれはおかしな話です
「うさぎ―もちつき」は分かります。「もち―団子」というのも、似ているのでなんとなく分かります。
でも、だからといって「うさぎは団子も作っている」というのは変な話です。なんの論理的整合性もありません。雰囲気で押し通しているだけなのです。


「うさぎは団子も作っている」という謎理論。
「月で作られた団子が地球にあるなんておかしい」という方向性。
これらから「子どものころの勘違い」というネタができました。「子どものころ、うさぎは餅だけでなく月見団子も作ってると思ってて、どうやって地球に送ってるか不思議だった。おかしいよねアハハ」というわけです。

ほっこりする話でイイ感じです。現実にそう思ってた人もいそうなぐらいで、無理のない流れです。これなら「うさぎ―もちつき―団子」というつながりを活かせそう。ようやくネタが形になり始めました。



【ネタを発展させる!!】
しかし「おかしいよねアハハ」では、オチとして弱いです。もう一押し欲しいところ。
でも4コマの中に入れられるネタの量には限界があります。ここらでコマの配分も考えましょう。




↑だいぶラフに構成を描いています。青い文字はこの文章のために後から書き足したものです。

「おかしいよねアハハ」までで3コマ使いそうです。残りは1コマ。ちょっとしたネタを一つ入れるだけで終わりでしょう。難しく考えずに、気楽に考えることにします。

1コマしかないので、話題を変えるのは無理があります。3コマ目までの話の流れが4コマ目まで続くことになるでしょう。勘違いの話が続いて、もう一つ「月見に関する勘違い」を出して終わり、ぐらいでよさそうです。
どんな勘違いにするか、最初に挙げた月見関連ワードから考えます。「月見うどん」と書いてあるので、月見うどんから考えようとしたようです。でも、すぐには浮かびません。


ここでも一苦労したのですが、漠然と考えているだけではアイディアは浮かびにくいです。方向性を決めておきましょう。「団子が地球にある理由には答えを出さない」という方向で考えたように、方向性を決めると次に進みやすいです。

「うさぎが月見団子作ってるなんておかしいよねアハハ」からもう一つ勘違いネタを出して終わりというプランですが、それで本当に面白いのでしょうか?
勘違いを羅列するだけだと、「そっかー、君はそんな勘違いをしてたんだね」で終わりそうな気もします。あと一つ、何か要素を付け加えたいところです。

そこで使いたいと思ったのが、「ルナティック」です。
月見というお題で、月が語源のルナティックを入れることができれば、言葉遊びという要素が一つ加わります。
また、月見というお題を与えられたら、誰でも団子やうさぎを連想します。しかしルナティックはどうでしょうか。ルナティックをネタに組み込むことができれば、オリジナリティも出せそうです。


そんなわけで最後の勘違いも、ルナティックな方向で考えます。
「月見うどん」というメモに引っ張られて「月見うどんにはうさぎの肉が入っている」という勘違いが最初に浮かんだのですが、月見うどんより月見バーガーの方が自然です。4コマ目は「月見バーガーにウサギの肉が入ってると思ってた」というセリフと、「それはルナティックだ」という指摘を入れれば、いい感じで終われそうです。


これで4コマ漫画の大枠は出来上がりました。どうにか形になりそうで一安心です。



【ネタをまとめる!!】
あとは細部を詰めて、4コマ漫画にします。

「うさぎは月見団子も作ってると思ってた。おかしいよねアハハ」
「月見バーガーはウサギの肉だと思ってた」
「それはルナティックだ」

と、セリフを並べただけでは4コマ漫画になりません。
どんなキャラがどの勘違いをしてて、どのセリフを言うかも決めていきます。

まず登場人物を二人用意します。似たような二人を出すとキャラがぼやけるので、違うタイプにします。一人は見た目がキツそう、もう一人は地味。まあ、今回描いた二人は過去の1h4d作品にも描いているキャラなので、使い回しなんですけどね。
見た目がキツそうなキャラに「おかしいよねアハハ」って言わせてギャップでほっこりさせる。そこから地味な方がルナティックなことを言う。ほっこりからの落差で読者を笑わせる。キツそうな方にルナティックってツッコませて終了。

これでOK!!
最初は何も浮かばず不安でしたが、10〜15分ぐらいでここまで考えることができました。


次に作画の工程に移るのですが、ここでもいろいろ微調整していきます。
ほっこり感を強めるために「なにそれかわい〜!」というセリフを追加します。餅つきしてるうさぎも可愛く描いた方がほっこりするでしょう。4コマ目のメガネの娘はコミカルにとぼけた感じで、ヤバいこと言ってる自覚がないように描きます。その方がより狂気的です。
他のセリフもけっこう工夫しています。なるべく文字数を少なく、かつ話の流れが伝わるように…。セリフはかなり考えて決めているんですが、考えすぎてどう改良していったか忘れました。


いろいろ考えながら描いていき、1時間と5分ぐらいで完成。1時間にはちょっと間に合いませんでしたが、細かいことは言いっこなしで。
終わってみれば「こうすればよかった」という点はいっぱいあるのですが、まあ1時間しかないのでしゃーないしゃーない。そう思えるのも1時間4コマ会のいいところです。




【解説@ アイディアと連想】
ここまで述べたアイディアの出し方について、この連載でお話してきたことを交えて解説していきます。

アイディアの出し方については考える編 第1回第2回でお話しています。
まず大事なのは、アイディアを捨てること。月から団子を送る方法としてロケットや剛速球を投げるなんて考えましたが、ゴッソリ捨ててます。



説明してないアイディアも、たくさん捨てています。「実は登場人物は月の住人だった。月で作られた団子を月で食べている」なんてのも考えましたが、話が複雑で4コマに収まらなさそうな気がして捨てました。細かい取捨選択も含めれば、もっとたくさんのアイディアを捨てています。


アイディアはどんどん捨てながら、「連想」をしていきます。



アイディアが自然に湧いてくるのは「発想」ですが、これだと自分の意思でアイディアを生み出すことはできません。月見というお題を見て面白いアイディアが自然発生するならいいのですが、湧いてこないなら連想で作るしかありません。
まずは連想の元にするため、月見に関する言葉を書き連ね、絵も描いてみました。絵の方は結局使いませんでしたが、勿体ないとは思いません。捨てるの上等で描いてますからね。

「団子」と「もちつき」が同時に目に入ったところから「うさぎ―もちつき―団子」とつながり、「うさぎは月見団子も作っている」と考えたのは、典型的な連想です。
「うさぎは月で団子も作っている」という謎理論と「月で作られた団子が地球にあるなんて、おかしいよね」という方向性から、子どもころの勘違いを思いついたのも連想ですね。


考える編 第2回では「内向き思考」と「外向き思考」という考え方を紹介しました。
ざっくり言うと、学校のテストで唯一の正解を探す考え方が内向き思考、自由に想像力を広げる考え方が外向き思考です。



「月で作られた団子が、なぜ地球に?」という疑問文に対して「こういう答えはどうだろう。こんな答えはどうだろう」といろんな角度から考えるのは、内向き思考的です。これはアイディアが広がりづらいです。

一方、月の団子が地球にある理由を考えるのをやめて、「月で作られた団子が地球にあるなんて、おかしいやろが〜い!」ってしていいよねというアイディア。こちらは、「月で作られた団子が、なぜ地球に?」という疑問文から一歩外に出ているような考え方です。一つの疑問文にこだわらず想像力を広げていく、外向き志向的です。こっちの方が次のアイディアにつながっていきやすいわけです。
(ただ今回の場合、外向き思考というよりは「メタ思考」と呼んだ方がしっくり来るかもしれません。アイディアを高い次元から俯瞰してとらえる考え方です。細かい違いを論じると長くなるので、今回は深入りしません)




【解説A ネタのまとめ方、話の構造】
外向き思考でネタを出していくんですが、ず〜っと想像力を広げていったら長編マンガになってしまいます。内向き思考でネタをまとめていくことも必要です。
コマの配分を確認したら、4コマ目で「おかしいよねアハハ」になりそう。じゃあ4コマでどう終わらせるか。もう一つ勘違いを出して終わりにするとして、どんな勘違いならきれいに終われるか。最後にネタをまとめるときは、内向き志向が有効です。(このへんの話はコラム第1回「内向き思考」でお話しています。)




ネタをまとめるためには、起承転結などの「話の構造」が役立ちます。ただし「1コマ目が起で2コマ目が承…」と厳密に考える必要はありません。(この話は考える編 第9回「承のコツ」参照)
実際今回のマンガは起承転結や序破急の基本的な形からはズレているように思います。起承転結というよりは起承承結って感じでしょうか。
なにも「起承転結を使わないといけない」なんてことはありません。考える編 第8回「承とは何か」でもお話していますが、面白いマンガを描くために起承転結という考えから何かを学べれば十分なのです。今回の作品は起承転結の形にはなっていませんが、「承」が大事っていう僕なりの持論をもとに、話の流れが上手く継承されるようにセリフの言葉選びなどに気を遣っています。それで十分です。

今回使った構造は、「ほっこりからの落差」、「言葉遊び(月見とルナティック)」でしょうか。
ほっこりする話の後に狂気的なこと言う。そんな構造になってたら笑いが起きるっていう、それだけの話なんですけどね。
でもこういう細かい構造を感覚的に知っておくと、ネタをまとめやすいです。起承転結みたいな仰々しいやつよりも、「ほっこりからの落差」とか「言葉遊び」とかの細かい構造の方が実用性は高いように思います。


そして話の構造を知っていると、考えたネタが面白いかどうかを判断することができます。
考える編 第6回でもお話ししていますが、自分が考えたネタが面白いかどうかって、客観的に判断するのは難しいです。しかし、「起承転結が上手くいっているか」、「ほっこりからの落差は表現できているか」というのは、客観的に見やすいです。




そもそも「自分が考えたネタが面白いかどうか、ちゃんとチェックする」っていうのが大事ですね。
今回の工程でも「これだけではオチが弱い。もう一押し必要」、「勘違いの羅列だけじゃ面白くない。もう一つ要素が必要」と、すぐにチェックしています。その上で対策を考えているんですね。考える編 第6回でも「話の構造は、話を考えるときではなく、チェックに使う」という話をしています。チェックのフローチャートも描いてますね。




最後の4コマ目はオチですね。オチについては考える編 第17回でお話ししています。
「オチは複雑でよく分からん」という話でしたが、未だにオチは言語化しきれていません。今回のオチはほっこりからの落差でオチる…と見せかけて最後に言葉遊びでオチるという、2段構えのオチって感じですね。こういうの名前ついてたりするんでしょうか。




【さいごに 理屈が全てじゃない】
以上、僕が4コマ漫画のネタを考えた過程を説明してみました。
かなり理屈っぽい説明でしたが、ハッキリ言って理屈は全て後付けです。

「よ〜し、連想を始めるぞ〜」とか、「ここは内向き思考じゃなくて外向き思考やな」とか、「思いついたネタをチェックするぞ〜」なんて考えてはいません。気が付いたら連想しているし、外向き思考しているし、思いついたネタをチェックしています。

すべて無意識のうちにやっていることです。今回の文章は全て後付けです。4コマ漫画を描き終わってから「自分の脳内ではたぶんこういうことが起こっていたのだろう」というものを書いたにすぎません。
(そのため、今回の説明の全てが正しいとは限りません。「ルナティックな方向で考えてうさぎ肉の月見バーガーを思いついた」と書きましたが、うさぎ肉の方がルナティックより先だったような気も、ほぼ同時だったような気もします)


ちょっと不思議な話ですよね。かなり理屈っぽくて複雑なことをしていますが、それを無意識にやっているなんて。
でも人間って、けっこう複雑なことを無意識にできちゃう生き物なんです。
僕らは無意識に走ったり自転車に乗ったりできます。でもこれって実はとても複雑な動きです。走ったり自転車に乗ったりできるロボットを作るのは大変ですからね(最近はパルクールをやるロボットなんてのもいますが)。


そういう複雑なことを、どうやったらできるようになるか。これはもう慣れしかないと思います。
僕らは自転車に乗れるようになるまでに、何度もコケています。乗り方の理屈を説明されたこともあったかもしれませんが、それですぐ乗れたら苦労しませんでしたよね。結局は何度も練習するうちにだんだんコツをつかみ、自転車に乗ることに慣れていきました。

ネタの考え方も同じで、結局は繰り返しです。何度もネタを考えることでしか、ネタを考える力を鍛えることはできないでしょう。
ただ、今回紹介したような理屈を知っていれば、上達するのが少し早くなるかもしれません。今回の文章がその一助になれば幸いです。



最後に、僕が1h4dで描いた4コマ漫画を、もう一つ紹介して終わりにしましょう。
お題は「ハンカチ」。「月見」とは違って、理屈を超越しているような作品です。




「ハンカチを噛んでるところから、ハンカチをめっちゃ引っ張って伸ばしたら面白くなりそう」と考えたところまでは覚えているんです。

でもそこからどういう過程で「伸ばしたハンカチを纏って強化させよう」という結論に至ったのか、まったく思い出せません。ハンカチを纏って強化する原理も謎です
そして、こんなわけの分からない展開がよく自分のチェックを通ったなって思います。話の構造を見てチェックするって話をしましたが、このマンガはどういう構造してるのか、今見てもよく分かりません。


でも僕はこれ、好きなんですよ…!
意味わかんないけど、なんか面白くないですか? 「ハンカチ」にはイイネの数もそこそこあったので、僕以外にもこういうの好きな人はいるんだと思います。


起承転結とかの構造がしっかりしてて、理屈として隙のないマンガもいいでしょう。
でも、それだけがマンガじゃないんですね。ちまちま理屈を考えているのがバカらしいような、わけが分からないマンガもありなんです。

それがマンガというもののスゴさだと思います。なんて奥が深いんでしょう、マンガって。



そんなわけで、僕が4コマ漫画のネタを考える過程を紹介しました。
理屈っぽい考え方だったり、理屈を超越してたりします。

みなさんはどういう風に考えていますか?
「こう考えている」などありましたらコメントしてもらえるとうれしいです。他の人の考え方知りたい。

それでは、今回はこのへんで。
【おまけ】
竹トンボの1時間4コマ会 参加作品
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